<問題>
【二】次の文の(ア)〜(ソ)に入る語を後から選び、11〜30の番号で答なさい。同じ番号を二度使ってはいけない。
「雪月花」という言葉がある。いずれも日本の風流を代表する景物である。雪害に悩まされた雪の深い地方では、雪が風流などとんでもないことだろうが、「雪月花」という言葉自体、(ア)を中心とした文化圏の風流の代表ということであるから問題はなかろう。日本は(イ)の変化のきわだった国であり、俳句という世界に比類のない文芸が生まれ育った。
俳句(ウ)という書物には、春、夏、秋、冬と新年の(エ)と、その解説、それぞれの(エ)を用いた俳句がのせられている。ちなみに俳句でただ花と言えば(オ)の花をさし、月と言えば(カ)の月をいう。
日本人は完全な美しさを賞する心と同時に、不完全なもの、すでに盛りを過ぎたものを重んじる心があるようだ。
古人も書いているが、例えば(オ)の花もその盛りだけを楽しむというのだけがいいというのではない。ほろほろと散る時もよし、ほとんど散ってしまって、わずかに梢に残っている花もなお俳句の材料になっている。
仲秋の(キ)は、旧暦八月(ク)日の月で、古来、月見る月の月と鑑賞されている。その(キ)が、空模様が悪くて見えないことを(ケ)月といい、特に(コ)が降ってまったく顔を出さないことを(コ)月という。このように(キ)が実際に見られなくてもそれなりの雰囲気を楽しんで、句の材料にするのが俳句というものである。
(サ)の花を買うとき、日本人はどちらかというと(シ)分咲きぐらいの花を選ぶが、西洋人は完全に開ききったものを好むという。
旧暦九月(ス)日の月を(ス)夜の月といい、仲秋の(キ)と同様、だんごや(セ)を供えて祭る。まだいびつな月で、これも、これから育とうとするものに期待しようという気持ちだろう。
月をたんなる(ソ)としか意識しないという欧米人とはずいぶん異なった考えということができよう。
11 七 12
十三 13 十五 14 季語
15 京都 16 東北 17
さくら 18 すみれ
19 ばら 20 すすき 21
無 22 雨
23 文学 24 歳時記 25
天体 26 宗教
27 秋 28 名月 29
冬 30 四季
【六】 次のア〜オに示したいくつかのことばから連想される動物は何か。それぞれ一つずつ、ひらがなで答えなさい。
ア、嫁入り ごん うどん 火
イ、皮算用 はやし おやじ
ウ、尾を踏む 下手な頭の刈り方 安直な学習書
エ、舌 小判 背 ひたい
オ、まね 知恵 芝居 すべり まわし
(04年慶應義塾中等部)
入試問題に挑戦第107回解答編
<解説>
前回の慶應義塾普通部の入試問題では、「基礎学力=必要条件」という観点で展開しましたが、今回はそこに付加される「教養」という観点でのお話を展開します。
入試に必要な国語力をどう培ったらいいのでしょう 塾での学習説明会だけではなく、当然ながら学校での説明会でも質問としてよく聞かれる内容です。それに対する学校側の回答として、これまたよく聞かれるのは、「たくさんの本を読むことだ」というものです。しかしながら、どのような種類の本をどう読むべきなのかは明らかにされず、保護者は途方に暮れてしまう というのもよくある図式です。
私たちアクセスは、「読書は活字に慣れ、興味や世界観をひろげるためのもので、解法のテクニックには直接結びつくものではない」と考えています。興味や世界観 これを広い意味での「教養」とここでは呼ぶことにしましょう。
ところで、「教養」を成立させるものに「語彙」があるという考えがあります。
では、日本語の「語彙」というのは、いったいどのくらいの大きさなのでしょうか。もっとも普及している新明解国語辞典では
75,000語(三省堂国語辞典が約76,000語、岩波国語辞典が約63,000語、旺文社国語辞典が81,500語)が収録されています。これが広辞苑になると約23万語収録されており、図書室や図書館に収録されている何巻ものの大辞典の類になれば、30万語を越す収録数になります。ただし、私たちがこれらの辞書をめくったときに感じるように、人生の中で眼にふれたり、使ったりするものは当然その一部になります。逆に言えば、その語彙が豊かであればあるほど(言葉をつかって思考するという観点に立てば)、その思考範囲が広がり、発想の可変性に富むわけで、この点で「語彙」=「教養の一部」という等式が成り立ちます。 ちなみに、この続きの文には、これらの語彙数は、「聞けばわかる理解語彙」のことであって、自分が話したり書いたりするときに使う「表現語彙」になるともっと少なくなるとされています。
引用文中に「小学校に上がったばかりのときで三千語だったのが、中学校に入るころには二万語ちょっとになり」とありますが、小学生から中学生までの時期の語彙習得は教科書によるもののみではないでしょう。その要素として前述した「興味や世界観」をひろげる読書が当然入ってくるでしょう。しかし、それ以上に大人との会話の占める割合が大きいのではないでしょうか。大人とのやりとりとは、家庭、学校、そして塾での大人との関わりです。
では、ここで、今回の慶應義塾中等部の問題を材料に、塾での大人との関わり、授業のシミュレーションを行ってみましょう。
「【六】は簡単だから、【二】を考えよう。知識を問う問題なんだけど、きちんと本文を読もうね。まず、(ア)。すぐ前に「文化圏」という言葉があるね。携帯電話を持っている人? 画面を見てごらん。「圏外」って表示になってるよね。そうそう、これは、教室では通話できる「範囲・場所」ではないっていう意味なんだよね。つまり、「圏」は、「範囲・場所」って意味がある。だから、「雪」が「風流」として問題にならない場所といえばどこになるかな。」
「(イ)は、次の段落に俳句と春夏秋冬の関わりがあることからも判断できるね。なに、楽勝だって。じゃあ、(ウ)は知ってるかな? 新六年生のオープンテストで出題したら、正解者が少なすぎて、先生泣いちゃいました。(エ)はこれにのっている季節をあらわすことばだよ。俳句を作るときのルールというか、「お約束」だね。テキストにもあったように、江戸時代にだれかが「有季定型」として確立したものだね。さて、だれが確立したかな? そう、そのとおり、松尾芭蕉だね。この(エ)は、俳句の描く「場面(情景)」の「いつ・どこで・だれが」のうち、「いつ」をイメージさせるものになるんだね。単なる知識だけじゃなくて、イメージするためには大切なものになる。」
「ところで、(オ)や(カ)も「お約束」のうちの一つなんだが、これは俳句だけじゃなくて、もっと歴史の古い文芸からの影響が大きい。別名「みそひともじ」というんだけど、わかるかい? みそは味噌じゃなくて三十って意味だぞ。そう、五・七・五・七・七で、短歌だね。鎌倉時代に編纂された「小倉百人一首」にこんなのがあるよ。「ひさかたの光のどけき春の日にしずごころなく花の散るらむ」 ここに登場する花も(オ)と同じ花なんだけど、四段落を見ると「わずか梢に残っている」とあるから、木に咲く花だと判断できる。理科の問題でもあるね。」
「理科の問題といえば、湿度が下がって空気が澄んでいるから月や星が美しい。日本で、もっとも空気が澄んでいる、つまり、乾燥している季節はいつだろう? そうだね、真冬だね。しかし、防寒着や暖房のしっかりしている現代とちがって、俳句が俳諧と呼ばれていた江戸時代に、寒さにふるえながら真冬に空を見上げるのは、風流とはいえなかったろうね。現実的には、気温がもう少し高いころで、しかも空気が乾いているころと言えば? そうだね。秋になる。だから、秋の(エ)には、天体を題材にしたものがとても多いね。旧暦と新暦の期間のズレも関係あるけど。」
「旧暦は、別名太陰暦というのは、歴史で学んだから六年生は知っているね。現在使われている太陽暦と比較すると、場合によっては一ヶ月〜一ヶ月半ほど太陰暦が進んでいるんだ。だから、「五月雨」って言っても、実際は六月半ばの雨なわけで、ようするに「梅雨」ということになる。「仲秋」は「ちゅうしゅう」って読んで、現在は九月になるよね。
童謡で「うさぎ、うさぎ、何見てはねる(ク)夜お月さま見てはねる」というのを聞いたことあるかな。九月に、この(ク)夜の(キ)というのはニュースにもなるから、五年生でも聞いたことがある人はいるんじゃないかな。「常識」がうまくつながったかな。」
「さて、むずかしいのが次の(ケ)と(コ)。ただし、文中に「(コ)が降ってしまった」とあるから、ここにはいるのはしぼりこめるね。そして、もどって「空模様が悪くて見えない」わけだから、(ケ)に入るものも決定できる。ここの解答の「無月」は「むげつ」、「雨月」は「うげつ」って読みます。」
「では、次は花の問題。ここまで秋の話なのに、(サ)にはいるべき花の名前は「バラ」か「スミレ」になるわけだから、季ちがいになってるね。まあ、それはさておき、バラもスミレもお花屋さんで買うことができるけど、スミレのほうは春の野原に自生するイメージが強いし、なにより「花を買う」というより「鉢植えを買う」というほうがふつうかな。それと、(シ)のあとの「分」は、「ぶ」と読みます。お母さんのブラウスなんかで「(シ)分そで」といってそでの短いデザインのものがあるけど、聞いたことあるかい?」
「いよいよ選択肢も残り少なくなってきました。よーく、確認してみましょう。(ス)には、あとに「日」がつながるから数字が入るね。残っているのは「十三」で、答えは「十三夜」になる。現在の「十三夜」は十月で、「十五夜」は九月になるわけで、むかしの人は、この時期の食べものに結びつけて「十五夜」を「いも名月」「十三夜」を「くり名月」と名づけました。形を想像するとなんだかおかしいけど、親しみのわく表現だね。おそなえする(セ)はわかったかな?」
「そしてラストは(ソ)。日本と欧米の対立構造が最後に出てくるね。前の段落にあるように、日本人は月をなかば「擬人化している」、と考えられれば、欧米人は「モノ」としてとらえているという考え方ができる。まあ、残った選択肢を当てはめる問題ともいえるけど、ふだんの読解意識があれば、選択肢がなくとも内容が予想できるんじゃないかな。」
以上が、授業シミュレーションでした。俳句と旧暦に関する問題でしたが、子供たちの生活意識や大人とのコミュニケーションの土台の上に立っている問題であることがおわかりいただけたでしょうか。昨今でも時折見かけられる、中学生レベルの漢字を問うてみたり、センター試験を思わせる必要以上に曖昧な選択肢を選ばせたりという「悪問」とは一線を画した良問と言えます。まさに子供を大切にした大人の態度の設問ですが、試験開始前に答案上部に数字の書きとり練習をさせられた受験生はその子供扱いに少々辟易としていたようです。
さて、子供たちはこれからさまざまな知識を習得していくのですが、「(子供なんだから)知らなくていいんだ」というのは、成立しないのではないでしょうか。(もちろん、暴力的・性的なものを意図した不穏当なものは、いずれ判断がつく年齢に与えるのは当然です。)中学入試に「知っていなくてはならない基礎知識」に加え、「知りたい」という気持ちを大切にし、「知るおもしろさ」をかき立てる。そんな知的環境を通して「世界観としての教養」を身につける態度をもてることこそが、志望中学の中学生となる上での十分条件になるのではないかと思います。
〈解答〉
【二】 ア
15 イ30 ウ24 エ14 オ17 カ27 キ28 ク13 ケ21 コ22 サ19 シ11 ス12 セ20 ソ25【六】 ア きつね イ たぬき ウ とら エ ねこ オ さる